2013年3月29日金曜日

ど真ん中がモノを言う

 今回は、ややストイックですが、ドラムを始めてからできるだけ早い時期に意識した方がいいお話です。

 太鼓系、すなわちスネア・タム・フロアタムにおいて、アタックと音程と音量が最もバランス良く出るのは、ヘッド(皮)の中心を叩いた時です。太鼓というのは中心を叩いた時に最も胴が鳴り、打面と裏面が最も共振するように作られ、ヘッドが張られています

 それをあまり意識しないままドラムを叩くと、スネアはスネアらしい抜けが弱く、タム回しの音程感もなく、太鼓の低い倍音も出ず、スカスカした軽い鳴りの印象になってしまいます。これは、叩いている本人より外で聴くと違いがよくわかります。太鼓の中心でなく端を叩いてしまっている事が主な原因です。

 ここで、叩く場所によるそれぞれのメリット・デメリットを説明します。


 まず、中心部は先述の通り、全てのバランスが取れた音が出ます。アタック・音量・音圧は最大になります。ただしリバウンドが弱いので、ロールには向きません。
 次に、図の斜線の部分は、主に音程感が強調されます。クラッシックの大太鼓や和太鼓はこの部分を叩きます。図の「倍音」というのは、音の「成分」だと思っていただいて構いません。この部分は音程は聴こえても、アタックが少し落ちてしまいます。スネアのリムショットの場合ここを叩く事が多いですが、それはリムでアタックを稼いでいるので問題ありません。経験上ですが、リムショットをするでもなく無意識にここを叩く習慣になってしまい、音抜けの悪いスネアになっている方は多く見てきました。
 最も外側のリム近くはリバウンドが最も強く、ロールのスタート時や超弱音時にのみ使用します。高い倍音が出るので叩く本人にはアタックが出ているように錯覚しがちですが、遠くで聴くとカサカサした印象で、太くて重いバックビートとしてのスネアの音は出ません。

 最終目的を「狙った場所を叩けるようになり、楽器におけるそれぞれの場所の特性を生かして音色を使い分ける」事と定め、それに向けて「ど真ん中を叩く練習」をしてみましょう。実に簡単です。


 練習台のど真ん中に10円玉くらいの大きさでガムテープを貼り、目で確認しながら基礎練習をします。習得できるまで、練習台で練習する時はここしか叩かないというストイックなルールを作ります
 これは私が「世界の手数王」ビリー・コブハム氏のクリニックに行った時に教わったもので、非常に効果がありました。ど真ん中を狙う練習はすなわち「好きな場所にスティックを持っていくための練習」になったからです。太鼓だけでなくシンバルの奏法にも役立ちました。この動画に一瞬、ガムテープの貼ってある枕の練習台が出てきますね。




一度身につければ、わりと意識しないでもど真ん中にスティックが行くようになります。そうなれれば、ドラムを叩く時に適度なエネルギーで音量とアタックが出せるようになり、あなたがドラムで言いたいことが客席に届きやすくなります

2013年3月15日金曜日

なかなかうまくならなくて…

ドラムを始めてしばらくの方で、上達スピードが遅いのではとお悩みの方は多いのではないでしょうか?

特に、年齢が20代以上でドラムを始めた場合、手と足をその場で全て制御しようとしつつ、実際には制御出来ていない事を客観視してしまうため、もどかしい思いでドラムと向き合う時期があるようです。
対して小学生〜10代で始めた子達は、いい意味で客観視などせず、手足が多少コントロールできなくても、がむしゃらに、夢中になって楽しくドラムと向き合えている事が多いです。で、いつの間にか出来る技術が増えている。

経験からお話すると、ドラムは

「練習で手と足の使い方を体に染み込ませ、ライブではさほど意識せずに自由にコントロールがきく状態に持っていく」

ものだと考えています。ライブの現場では、自分のドラミングに向かう意識を出来るだけ少なくして、共演者のプレイと客席の反応にほとんどの意識を向けるべきだからです。

練習とは、今まで出した事のない命令を手足に初めて伝え、その命令回路をどんどん関連付けていく作業です。新しく身につけようとする技術はいきなり出来るものではありません。老いも若きも平等に、出した事のない命令を出す経験を繰り返し、出来ない技術を一つ一つ出来るようにしていくしかないと私は考えます。

上達スピードに関して言えば、もちろん個人差があるのが前提の話ですが、
・出来ない事を全部いっぺんに出来るようになろうとする
・自分が具体的に何が「出来ない」のか把握できていないまま、ただ漠然と、うまくならない事にネガティブになる
そういう精神状態の時は残念ながら伸び悩み、なかなか上達しません。

裏打ちが苦手なら裏打ちを練習する、二連打が苦手なら二連打の練習する。自分の好きな音楽を聴く、ドラマーを聴く。やってみたい事を出来なくても真似してみる。ドラムと向き合うのは、本来実にシンプルな事のはずです。以前お話した通り、肉体的に見れば車の運転のようなもの。基本的には誰でもドラムは上達します。

あとは、ネガティブな精神状態から脱出するだけです。「やらなきゃいけない」ではなく全部が「やりたい」になれれば理想的です。出来ない事に向き合うのは大事ですが、出来るようになった事にはきちんと満足するのも必要な事です。ドラムを始めたいと思った時期、ドラムが楽しかった時期の自分を思い出し、出来ない事は一つ一つ出来るようになればいいだけだと考え、あせらずマイペースに、常に楽しくドラムに向き合う事が、実は上達のスピードを速めます。

2013年3月13日水曜日

基礎練習#2 休符を鍛える①

 音符をそのまま叩くのと同じだけ、休符をきちんと表現できるようになる事が重要です。今回は休符のトレーニングになる練習パターンを提示します。まずは譜面をどうぞ。



 いきなり難易度が高いと感じるかもしれませんが、出来ない事だけ効率よく練習する事が上達への早道です。根気良く取り組んでみましょう。

 メトロノームをテンポ90で鳴らしてみましょう。

 ①は4分休符。1・2・3・4の1と3が休符です。1と3がメトロノームだけの音、2と4で叩いた音とメトロノームが同時に鳴ればOKです。
 休むというより、「休符を叩く」感覚で練習しましょう。手を動かすか否かでなく、いかにイメージするかです。余談ながら、外国人ミュージシャンと共演した際、あまりに休符がくっきりと形になって表現されていて驚いた経験があります。
 手順は、左右交互に。右スタート、左スタート両方やってみましょう。

 ②は8分休符を頭に感じ、裏に叩く難しい練習です。いわゆる「裏拍」です。1・2・3・4をメトロノームに鳴らしてもらい、ちょうど半分のタイミングで叩きます。この時肝心なのは、メトロノームの1・2・3・4を聴きながら、
                   「1・と・2・と・3・と・4・と

と、全ての8分音符を体で感じる事です(下の音符)。どうしても叩く位置がわからない方は、メトロノームを8分音符で鳴らしてみて、慣れたら4分音符に戻しましょう。テンポをゆっくりにしてみてもいいです。①と同様左右交互、右スタート左スタート両方やってみましょう。
 テンポ90でほぼ正確に叩けたら、メトロノームの設定テンポをどんどん早くして限界までやってみましょう。この8分裏打ち、ものすごーく休符の訓練になり、かつ実践にも使えます。

 実は世の中の「行進曲」のスネア・パターンの多くがこれです。例えばテンポ170くらいだと、「クシコスの郵便馬車」。運動会でおなじみのあの曲ですね。はい、この曲のスネアドラムパートはかなりの修行です。

 そのほか、表拍を感じながら裏拍にアクセントを入れる音楽に「ジャズ」があります。表拍を感じられていない状態で裏だけアクセントを入れ、不安定なリズム感のままジャズを長年演奏している人が、実は日本にはかなりいます。個人的には、スウィングのビートは表拍を感じる事でグルーヴがどっしりとし、初めて安定した演奏が可能になると考えています
 つまり、将来スウィング・ビートのジャズ・ドラムが叩きたくなった場合、この「裏打ち」の練習が抜群に生きてきます。

 休符の話が裏打ちの練習の話になってしまいましたが、休符の練習一つがこれだけ奥深く役に立つ、という事を言いたかったためです。じっくり取り組んで頂きたいので、今回は4分休符・8分休符までにします。




2013年3月10日日曜日

口ドラムでドラムが変わる

16ビートのドラムパターンを口で歌ってみる場合
「ドッチチタッチタドッチチタッチタ〜」
と言うのに比べて
「くっつくパンツかひっつくパンツかはっつくパンツかむかつくパンツか」
と言ってみた方が、いいグルーヴになりませんか?

真面目に解析すると、歌い方としてスネアは「タッ」よりも「パン」の方がかっこよく、「むかつく」はスネアのゴーストノートとハイハットのアクセントがきちんと表現できた歌い方になっています。また、「ひっつく」「くっつく」等、フレーズ頭の音に変化をつける事で、2小節で一つのグルーヴになっている事も表現できています。
元はギャグみたいなフレーズで、これが理想の歌い方ではありませんが、口でドラムを歌う時、発音の仕方だけでずいぶん表現に違いが現れる、という一例です。

もっとわかりやすい例を出してみましょう。

8ビートのドラムパターンを口で歌う場合、
「ドン・タン・ドド・タン」
と歌うよりも、
「ドゥーン!バーン!ドゥードゥー!バーン!」
と発音した方が、よりかっこよく聴こえてきませんか?

ポイントは、濁点をつける事。音もグルーヴも太くなり、アクセントがより強調できるからです。 例えばフィルイン一つにしても
「タンタンタカトン」
だと凄く淡白ですが
「バンバンババドゥン」
の方が表情豊かでゴージャスになり、インパクトが大きくなります。

普段からドラムの音をこのような発音で口で歌っているうちに、叩く音のイメージがゴージャスに、表情豊かになります。そしてこれが、あなたのドラムの音を変えます。
なぜなら、ドラムの音は、叩く時にどんな音をイメージするかで全く違うものになるからです。

まずはとっかかりとして、是非この「濁点をつけた歌い方」を実践してみて下さい。

2013年3月5日火曜日

指・手首・腕 #2 デモ動画

この記事の続編です。

まずは指・手首を中心に使った細かいフレーズのドラミング。

移動の時間稼ぎと、速いストローク・クリアな粒立ちのための細かいスティックコントロールが必要ですが、体重を乗せた重い音が必要ないので、主に指と手首を使います。

次に、前腕と上腕を主に使ったドラミング。

ロック的な、体重を乗せた重い音・ビートを出すために、前腕・上腕を多く使い、スティックの振り幅を広げます。もちろん手首や指も使いますが、手首はスナップを効かせるのみ、指はスティックを支える程度にしか使いません。

動画の演奏を今すぐできるようにする必要は全くありません。ただ見ていただいて、まずは指・手首・腕を全て使うものだときちんと認識し、実際に動かしてみて、必要に応じて好きなように使い分けられる事を目標にしましょう。

2013年3月4日月曜日

ドラム・ヒーローを見つける

 吹奏楽部でドラムを始めた私、橋本がまず教わったのは8ビート。ドラムセットで個人練習に取り組むも、自分の演奏がかっこいいとも思えず、しかもドラム一人でやっていても何が楽しいのか全くわからず悶々としていました。

 ドラム担当にくじけそうになっていたある日、先輩から借りたフュージョンバンド「CASIOPEA」の音源に大衝撃を受けました。ドラマーは後のワンマン・オーケストラのあの神保彰さん。その日から、全くできないにも関わらず強引に神保さんのモノマネばかりしておりました。
もうその日からは楽しくて楽しくて、部室ではドラムセットで神保さんのドラムパターンをマネし、家ではCASIOPEAをエンドレスで流しながらスティックを振り回す毎日でした。
 後にデイヴ・ウェックル、スティーヴ・ガッド、ジャック・ディジョネット等続いていきますが、神保彰さんは私にとっての最初の「ドラム・ヒーロー」でした。

 このように、ドラム・ヒーローとは、憧れであり、目標であり、ドラムを叩きたくなるモチベーションであり、音楽を続けるモチベーションにもなります。私は神保さんを好きにならなければ、8ビートの段階でドラムから興味を失っていたと思います。

 ドラムを始めてすぐにドラム・ヒーローに出会えた方はとてもラッキーです。なかなかそう簡単には出会えませんが、まずは分け隔てなく様々なジャンルの音楽をドラマーに注目しながら聴いてみましょう。時代はバラバラで構いません。今ならDrummerworldYouTube等で動画でも見られます。世界中にいかに様々なスタイルのドラマーがいるかよくわかります。

 ヒーローにもし出会えたら、間違いなくドラムが数倍楽しくなります。
 

基礎練習#1 原点


 スティックと練習台、メトロノームが揃ったら、まず初めに行う練習はシングル・ストローク(1つ打ち)の練習です。まずは譜面をどうぞ。

 では、メトロノームを4分音符、テンポ90で鳴らしましょう。4分音符とは、譜面の①の音符の事で、メトロノームに表示される数字が4分音符のテンポなので、90に合わせて下さい。

 メトロノームが鳴り始めたら、それに合わせて①を叩いてみましょう。譜面のRは右手Right、Lは左手Leftです。右手から交互に叩きます。

 ではメトロノームはそのままで、②以下続けてやってみましょう。数字に丸がついているRとLが、メトロノームと合うポイントです。②、③、④はそれぞれ、メトロノームが一回鳴る間に2回、3回、4回叩きます。②は8分(はちぶ)音符、③は3連符、16分(じゅうろくぶ)音符です。③の時はメトロノーム一回ごとに左右の手が入れ替わります。
 心がけるべきは、一定のリズムで右手左手交互に叩く事です。不整脈は起こさないように。音量やスティックの振り幅もそろえましょう。ポイントは、前にもお話した「不器用な左手」です。

 この基礎練習だけでかなりの事が身につきます。私は今でも日常的にこの練習メニューから始めています。ストロークのテクニックと自分のリズムを常に整えておくには、ドラムに触る前に練習台でメトロノームを使ってこれをやるのが一番効果的だと考えています。できれば一日一時間でも毎日やれば確実です。
 また、テンポ90を指定しましたが、テンポ60から始めて61、62…200くらいまでいけば、一日なんてすぐ終わってしまうので(笑)自分は90、100、110と10ずつ上げて練習しています。

  応用は全て基礎あってのもの。是非こちらを原点として歩んでいって下さい。

2013年3月2日土曜日

右手はいいけど左手が…

ドラムを使った動画撮影の環境にないので、別の記事を一つ。

右手が利き手である方は、普通右手の方が器用です。
 右利きのドラマーが歴史上多かったせいか、ドラミングも基本的には右手がリードするように出来ています。単純に右手の方が左手より細かく多く使うリズムパターンが多く生まれました。

 しかしながら、より高度で安定したテクニックを身につけるには、左手の技術向上は避けて通れません。
 例えば、右手左手を交互に一つずつ叩く、いわゆるシングル・ストロークのスピードを上げようとする場合。実際一番速く叩こうとすると、右利きの方は間違いなく右手が速く左手が遅くなります。シングル・ストロークの場合、右手左手の音符が均等でなければならないので、必然的にシングル・ストロークのスピードは左手の遅いスピードで決まってしまいます。逆の発想だと、左手のスピードさえ上がればシングル・ストロークが速くできる、とも言えます。

 この一例でも明らかなように、新たなテクニックを身につけようとする時、左手の不器用さが足かせとなっている可能性を常に意識した方がいいでしょう。
 練習とは、できない事から手をつけるのが最も効率が良いので、右手に比べて左手をいつも少し多めに練習するくらいがちょうど良いと思っておきましょう。